山と森と侗(トン)族と私

信仰習俗

 通道の境界内のトン族の宗教は自然崇拝と人文宗教の2種類に分かれる。自然崇拝が主であり、信仰する万物には魂がある。人文宗教は仏教信仰が中心である。
トーテム崇拝:トーテムは瓢箪(ひょうたん)、龍、蛇など、トン族はこれらを祖先の化身とみなし、いっそう保護する。とりわけ瓢箪と龍で、トン族の神話の言い伝えでは、古代に人類が洪水で水が溢れる災害に遭遇した時、トン族の始祖の姜良・姜妹は大きな瓢箪に寄りかかり避難し救われた、それで瓢箪を神物として、地にひれ伏して、最深の祈りをする。一人前の男が旅に出たり出征したりする時、お守りとして腰に瓢箪をつける。また 特に福橋や鼓楼等公共建築のてっぺんの像は瓢箪で、トーテム崇拝の一種の象徴である。
 龍の崇拝は、トン族祖先は古代駱越人が分かれたもので、龍をもってトーテムとし、どの人の集まり住む所にも、民族の象徴として、重要な所に立龍の像がある。
後漢の趙晔の著作「呉越春秋第四巻阖 (こうりょ)伝第四」によると「子胥(ししょ)――大城を建築し--立龍門は、姿をもって地をつくり、巳の地は蛇であるべきで、よって南大門には木彫りの蛇像があり、北が首に向き、越は呉のものである。(註1)」
古代のトン族の先住民がかって軍事連盟形式の款組織を作った時、どの小項にも一面に村の旗、取り決めの旗といわれる旗印がある。旗は長方形で、黄地に黒字、赤縁、左右両縁と下縁には対称形の菱形、三角穂、龍の刺繍がたくさん縫い合わされ、四隅には飛龍の図案がされている。鼓楼の建築には龍のトーテム崇拝の跡が見られる。鼓楼はトン族村の標識であり、あるものは正門の横額に波濤わき上がるカラー絵が描かれ、龍が深い淵に潜んでいることを暗示している、またあるものは鼓楼のてっぺんに装飾のある彫り物の龍の姿がある。
 トン族の人々は龍がどこにでもいることを知っており、雨の後、晴れると虹がでるが、これは水をのむのだと知っている、深い淵には龍が住んでいると知っている、今なおこの 方面のたくさんの地名に如龍潭、龍滩、龍王滩などと残っている。龍は蛇が長いあいだ修練してなったものであり、だから蛇に対してもひれ伏して祈る、とりわけ先祖の墓の中の蛇は、先祖の化身と見られ何倍も保護する。  亀の崇拝、亀はかってトン族の先住民のトーテムだった。亀のトーテムは今はすでに消滅しているが、「款詞」「侗耶」の中に其の跡が探せる。

祖先崇拝:祖先崇拝で主要なのは、トン族の盛隆発展の保護神サスイ(薩歳)(註2)に対してである。サ(薩)はどこにでも居て、なんでも出来る。トン族の各村落には、サスイ(薩歳)の祭壇があり、およそお祝いの日や外で集団で接客するときは、必ずサ(薩)祭壇の前でまず盛大な祭りごとを行う。年三十夜、田舎の親類の父爺が集まって、サ(薩)祭壇のお守をする。新しい村落を作るとき、先にサ(薩)祭壇を作る。人が村落に住み始める前に、まずサ(薩)祭壇の前で火を燃やし、各家各戸はここで火種をとり家に持ち帰る。サ(薩)の子孫が、サ(薩)の炊事の煙を受け継ぐということを表している。村落が不安に襲われた時、サ(薩)の加護を祈る、外敵が侵入した時、 サ(薩)の加護を祈る。 今でも、人々の間で、サ(薩)の霊験があらたかなことの伝説が言い伝えられている。その例は、清の末期、外敵が龍城鎮歯大村に侵入した時、激戦中に突然、サ(薩)が霊験を示し、敵は戦わずして壊滅した。1952年坪担郷高歩村の村落が不安に襲われた、占いをすると、それは偽の郷長が馬鍬(まぐわ)でサ(薩)祭壇のサスイ(薩歳)の藻裾をひっかけサ(薩)所を追い出したことによることがわかった。そこで村落あげてサ(薩)を迎える儀式を行い、新たにサ(薩)祭壇を安置し、この村落は平安を急いだ。というような話は数え切れないくらいある。

自然崇拝:自然崇拝の主要なものは雷神、土地神、水神である。トン族が雷神を大変崇拝することは、雷と稲妻に関する多くの話が民間で言い伝えられている、誰でも知っているのは雷神が(トン族始祖の)姜良・姜良と繁殖する人類を救ったという話である。今なお 民間では雷神にひれ伏して祈る。
 土地神や水神も同じようである。およそ橋の入り口、村落の入り口、道の入り口、山間の入り口の所に、全て土地神を安置し、各祝祭日や家で何かうまくいかないことがあるたびに、いつも必ず土地神の前にいって線香を立てて祭る。人々が山に行って狩をしたり 木を伐ったりする時、いつも必ず山間の入り口の土地神をまず祭り、狩の収穫が多いことと伐採が順調に進むよう加護を求める。狩から帰ると獲物をやはり必ず祭り感謝をしめす、 そうしないと一切全てがうまく行かなくなる。
 毎年の初めに、人々は水神にまた水が使えるよう必ず祭る。その日の祭りを開くにあたり、まず年寄りの婦人が井戸か河辺で香をたいて人々がまた水が使えるよう必ず祭る。

(註1)この呉越春秋の引用文の正確な訳はわからない。原典をあたって前後関係を調べる必要あり。但し、この引用は中国人が皆知いる歴史の有名な話でも、門に龍や蛇があるでしょうというための引用と思われる。引用内容がそれほど重要なものとも思われない。
この引用は四字成語「臥薪嘗胆」に関係ある歴史上の話。
(註2)サ(薩)サスイ(薩歳)はトン族の始祖母で、最高の守護神。トン語の呼び方。
  (「少数民族の信仰と習俗」下、第一書房、P576)
萨(薩)という字は菩薩などにも使われ、仏教の菩薩と紛らわしいが、ここでは関係ない。
萨(薩)という字は外国の地名や人名等に「サ」という音の音訳字。萨米(人名サミー)

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